
"3分で読める"シリーズの第2弾 DX(デジタルトランスフォーメーション)に関するコラムです。
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第6回:全社を動かすDX推進体制の作り方
はじめに
経営トップが強力なリーダーシップを発揮し、明確なビジョンを掲げたとしても、それを実行に移すための具体的な組織体制がなければ、DXは「絵に描いた餅」で終わってしまいます。
戦略や意志を、日々の業務レベルでの具体的なアクションに変えるエンジンが必要です。
今回は、DXを全社的に推進するための組織体制の構築方法について、その要点を解説します。
なぜ専門部署が必要なのか
DXは、日常業務の片手間で進められるほど簡単なプロジェクトではありません。
既存の業務プロセスや組織構造にメスを入れる、全社的な変革活動です。
そのため、この変革を専任で担い、強力に推進していくための専門部署やチームの設置が不可欠となります。
この専門部署は、単なるIT導入部隊ではありません。
DX戦略の策定から実行管理、部門間の調整、最新技術の評価、そして変革の触媒役まで、
多岐にわたる役割を担う「司令塔」としての機能が求められます。
理想的な推進体制の3つのポイント
効果的なDX推進体制を構築するには、3つの重要なポイントがあります。

- ポイント1:経営層直下での設置
DX推進部署は、その活動の重要性と権威を担保するために、CEOや担当役員など経営層の直下に置かれるべきです。
これにより、部門間の利害調整や予算確保といった場面で迅速な意思決定が可能となり、各部門の協力を得やすくなります。
組織図上の位置が、その取り組みの本気度を社内に示すメッセージとなるのです。 - ポイント2:部門横断型チームの組成
DX推進チームをIT部門の出身者だけで構成するのは、典型的な失敗パターンです。
DXの目的はビジネス変革であり、そのためには現場の業務や課題を深く理解している人材が不可欠です。
営業、マーケティング、製造、人事といった主要な事業部門からエース級の人材を集め、
IT部門の専門家と協働する「部門横断型(クロスファンクショナル)」のチームを組成することが成功の鍵です。
これにより、テクノロジーとビジネスニーズが融合した、実効性の高い施策が生まれます。 - ポイント3:明確な役割と権限
新設されたDX推進部署が社内で十分に機能するためには、
その役割(ミッション)、責任範囲、そして意思決定の権限を明確に定義し、全社に周知徹底する必要があります。
例えば、
「各事業部のDX案件に関する予算配分の一次査定権限を持つ」
「全社データ基盤の標準仕様を策定する権限を持つ」
といった具体的な権限を与えることで、部署の実効性が高まります。
現場を巻き込むための仕組みづくり
中央の推進部署だけが奮闘しても、全社的な変革は起こせません。
重要なのは、現場の従業員一人ひとりを変革の当事者として巻き込んでいく仕組みです。
- DX推進アンバサダー制度
各事業部門内に、DX推進の「伝道師」となるアンバサダーを任命します。
彼らは、推進部署と現場をつなぐハブとして、現場の課題やニーズを吸い上げるとともに、新しいツールやプロセスの導入をサポートし、現場からの理解と協力を促進します。

- 定期的な情報共有とフィードバックの場
タウンホールミーティングやワークショップを定期的に開催し、DXの進捗状況や今後の計画を透明性高く共有します。
また、現場からの意見やアイデアを吸い上げるためのチャネルを設けることも重要です。

- スモールスタートと成功体験の共有
最初から全社一斉の大規模な変革を目指すのはリスクが高いアプローチです。
まずは協力的ないくつかの部門で、成果を出しやすい小規模なプロジェクトから始めます。
そこで得られた成功体験を「DXニュース」のような形で積極的に社内発信することで、「DXは自分たちの仕事にもメリットがある」という認識が広がり、変革への機運が醸成されます 。

実は、DX推進チームの組織構造そのものが、企業が目指すべき未来の組織像の縮図と言えます。
部門の壁を越えて協力し、データに基づいて迅速に意思決定を行い、アジャイルに活動するDX推進チームは、まさにDXが目指す新しい働き方の実験場です。
そのチーム運営を通じて得られる成功や失敗の経験は、プロジェクトの成果以上に、全社的な組織変革を進める上での貴重な学びとなるのです。
次回のコラムは、11月27日(木)更新予定です。