
"3分で読める"マーケティングに関するコラムの第9回です。
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【第9回】一度きりの顧客から一生のファンへ
「穴の空いたバケツ」を塞ぐ
多くのビジネスが新規顧客の獲得に躍起になっていますが、それと同時に既存の顧客が離れていっているとしたら、
それは「穴の空いたバケツ」に水を注ぎ続けるようなものです。非常に非効率で、コストもかかります。
マーケティングの世界では、「新規顧客の獲得コストは、既存顧客を維持するコストの5倍かかる(1:5の法則)」とよく言われます。
ロイヤルティの高い顧客は、繰り返し購入してくれるだけでなく、友人や知人に製品を薦めてくれる、最も強力な営業担当者にもなり得るのです 。
この「顧客を維持し、長期的な関係を築く」という考え方を戦略的に実践するのが
CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)です。
CRMとは何か?
CRMは、単なるITツールを指す言葉ではありません。
それは、顧客との良好な関係を長期的に築き、継続的な利用を促すことで、企業の利益を最大化するための経営手法そのものです。
そして、その経営手法を効率的に実現するために用いられるのが、
SalesforceやHubSpotに代表されるCRMシステム(ITツール)です 。
CRMシステムがもたらす主な機能は以下の通りです。
- 顧客情報の一元管理
これまで営業、マーケティング、カスタマーサポートなど、部門ごとにバラバラに管理されていた顧客に関するあらゆる情報(連絡先、購入履歴、問い合わせ内容、商談の進捗など)を、一つの場所に集約します 。 - パーソナライズされた体験の提供
統合された顧客データを分析することで、顧客一人ひとりの興味関心や行動に合わせた、きめ細やかなアプローチが可能になります。例えば、過去の購入履歴に基づいたおすすめ商品をメールで送るなど、顧客は「自分のことを理解してくれている」と感じ、満足度が高まります 。 - 全社での顧客対応品質の向上
どの部門の担当者でも、顧客の全体像を瞬時に把握できるため、たらい回しにしたり、同じことを何度も顧客に質問したりすることなく、スムーズで質の高い対応が実現します 。
関係性を測る指標:LTVとチャーンレート
CRMを実践する上で、重要となる指標が二つあります。
- LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)
一人の顧客が、その生涯にわたって自社にもたらしてくれる利益の総額です。
LTVの最大化は、顧客との良好な関係が築けている証であり、
CRMの最終目標と言えます。

- チャーンレート(解約率)
一定期間内に、自社のサービス利用をやめてしまった顧客の割合です。
この数値が高いことは、
製品やサービス、顧客対応に何らかの問題があることを示す危険信号です 。

多くの企業では、マーケティング部門は「リード獲得数」、営業部門は「受注件数」といったように、
部門ごとに異なるKPIを追いかけています。
しかし、これが時に組織全体の利益と相反することがあります。
例えば、営業部門が短期的な目標達成のために、本来は自社に合わない顧客と契約してしまうと、
その顧客はすぐに解約(チャーン)し、結果として企業のLTVを下げてしまいます。
ここでLTVを組織全体の「北極星指標(North Star Metric)」として設定すると、各部門の行動が変わります。
マーケティングはLTVが高くなりそうな質の良いリード獲得を目指し、
営業は長期的な関係を築ける優良顧客との契約を重視し、
カスタマーサポートは解約を防ぐための能動的な支援に力を入れるようになります。
LTVという共通の目標が、組織全体のベクトルを「長期的で本質的な価値創造」へと向かわせるのです。
結局のところ、CRMとは「顧客中心主義」という理念を、テクノロジーの力で組織の隅々にまで浸透させるための運用基盤なのです。
次回でこのコラムは最終回となります。最終回は、9月18日更新予定です。