【第8回】3分で読める DX入門講座

"3分で読める"シリーズの第2弾 DX(デジタルトランスフォーメーション)に関するコラムです。 
是非ご覧ください。

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第8回:DXを加速させる人材戦略 – 「リスキリング」の重要性


はじめに


優れた戦略を描き、最新のテクノロジーを導入しても、それを使いこなし、価値を創造する「人」がいなければDXは実現しません。DXの成否は、最終的に人材戦略にかかっていると言っても過言ではありません。

しかし、多くの企業が深刻なデジタル人材不足に直面しています。

今回は、この課題に対する最も現実的かつ効果的な解決策として注目される「リスキリング」に焦点を当て、DXを加速させる人材戦略の本質を探ります。

DX人材不足という現実


AIエンジニアやデータサイエンティストといった高度な専門性を持つデジタル人材の需要は急増しており、有効求人倍率が10倍を超えることも珍しくありません。
このような売り手市場において、必要な人材を外部からの採用だけで確保することは、特に大手企業以外にとっては極めて困難であり、多大なコストを要します。

この厳しい現実が、社内人材の再教育、すなわち「リスキリング」を、単なる選択肢の一つではなく、企業の持続的成長のための必須戦略へと押し上げています。

リスキリングとは何か?


リスキリングとは、下記のように定義されています。

新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、
必要なスキルを獲得する/させること

重要なのは、これが単なる個人の「学び直し」とは異なる点です。

リスキリングは、企業の事業戦略に基づいて、「将来的に必要となるスキル」を定義し、そのスキルを従業員に計画的に習得してもらう、戦略的な人材投資です。

この重要性は国レベルでも認識されており、岸田政権では個人のリスキリング支援に5年間で1兆円を投じる方針を表明するなど、政府も強力に後押ししています 。

企業がリスキリングに取り組むメリット


企業が主体的にリスキリングを推進することには、計り知れないメリットがあります。

  • 人材不足の解消と定着率の向上
    従業員の未来に投資する姿勢は、エンゲージメント(仕事への熱意や貢献意欲)を高め、離職率の低下につながります。
    学びの機会を提供することは、優秀な人材を惹きつけ、定着させる上でも有効です 。
  • ビジネス知識との融合による「ハイブリッド人材」の育成
    これがリスキリング最大のメリットです。
    長年勤務してきた従業員は、自社の製品、顧客、業務プロセスといった「ドメイン知識」を深く理解しています。
    このドメイン知識に、データ分析やAI活用といった新しいデジタルスキルが掛け合わされることで、外部から採用した専門家にはない、極めて価値の高い「ハイブリッド人材」が生まれます。
    彼らは、ビジネスの現場課題を深く理解した上で、最適なデジタルソリューションを企画・実行できる、まさにDXの中核を担う人材となります。
  • コスト効率とスピード
    長期的に見れば、外部から高額な報酬で人材を採用し続けるよりも、社内人材を育成する方がコスト効率に優れる場合があります。
    また、社内事情に精通しているため、立ち上がりが早く、スムーズにDXプロジェクトを推進できます 。

DX人材の育成事例


既に多くの先進企業が、独自のリスキリングプログラムを導入し、成果を上げています。

  • KDDI
    社内大学「KDDI DX University」を設立し、DX推進に必要なスキルを体系的に学べる機会を提供。
    同時に、専門性を正当に評価するための「ジョブ型人事制度」を導入し、人材育成と制度改革を両輪で進めています。
    (参考:KDDI株式会社 人材育成 https://www.kddi.com/corporate/sustainability/society/employee/

DX推進の過程で生じる現場の抵抗感の多くは、
「自分の仕事がなくなるのではないか」「新しい技術についていけないのではないか」という将来への不安から生まれます。

リスキリングは、この不安に対する企業からの最も誠実な回答です。
従業員に対して「あなたには変革後の会社にも活躍の場がある」という明確なメッセージを伝え、新たなスキルを習得する具体的な道筋を示すことで、変革への「恐怖」を「機会」へと転換させることができます。

このように、リスキリングは単なるスキル開発施策にとどまらず、組織の変革への抵抗を和らげ、文化変革を加速させるための、極めて強力なチェンジマネジメントの手段なのです。


次回のコラムは、12月11日(木)更新予定です。