
"3分で読める"シリーズの第2弾 DX(デジタルトランスフォーメーション)に関するコラムです。
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第5回:DX実現の第一歩 – 経営層が果たすべき5つの役割
はじめに
これまでの連載で、DXの成否を分ける最大の要因が「経営層のコミットメント」にあることを繰り返し強調してきました。
しかし、「コミットする」とは具体的に何をすることなのでしょうか。
漠然とした精神論では、変革は一歩も前に進みません。
今回は、DXを成功に導くために経営層が具体的に果たすべき5つの役割を定義し、リーダーシップのあり方を明らかにします。
役割①:ビジョンを語る 「伝道師」
DXの旅は、経営者が自社の未来像を熱く語ることから始まります。
リーダーは、DXによって自社が「どこへ向かうのか」という目的地を具体的に描き、社内外に力強く発信し続ける「伝道師」でなければなりません 。
このビジョンは、単なるスローガンであってはなりません。
「なぜ我々はこの変革に取り組むのか」という問いに対し、自社の存在意義(パーパス)や事業戦略と結びついた、説得力のある物語を提示する必要があります。
そして、その物語を全社会議や社内報など、あらゆる機会を通じて自らの言葉で繰り返し語り、全社員が「自分ごと」として捉えられるまで浸透させることが重要です 。

役割②:変革を断行する 「意思決定者」
DXは、既存の業務プロセスや組織の壁を壊すプロセスです。
そのため、部門間の利害対立やリソースの奪い合いは避けられません。
ここで経営層に求められるのは、部分的な最適化(個別最適)ではなく、会社全体の利益(全社最適)という視点から、
時に痛みを伴う改革を断行する「意思決定者」としての役割です 。
現場からの抵抗に直面したとき、リーダーシップを発揮して困難な意思決定を下すことこそ、経営層にしかできない重要な役割です 。
その断固たる姿勢が、社内に対して「この変革は本気だ」という明確なメッセージとなり、組織全体を動かす力となります。

役割③:リソースを確保する 「投資家」
DXは、技術、人材、そして時間への大規模な投資を必要とします。
経営層は、この変革に必要な予算とリソースを確保し、短期的な業績圧力から守り抜く「投資家」としての役割を担います 。
これは、従来の投資判断基準からの転換を意味します。
DXの取り組みの中には、すぐに明確なリターンが計算できない実験的なプロジェクトも含まれます。
確実なリターンばかりを求めすぎて挑戦を阻害するのではなく、失敗のリスクを許容し、未来への可能性に投資する姿勢が不可欠です。

役割④:文化を醸成する 「ロールモデル」
DXの最終的な目標の一つは、企業文化の変革です。
そして、文化はリーダーの行動によって形作られます。
経営層は、自らが目指す文化を体現する「ロールモデル」でなければなりません。
具体的には、下記のことが求められます。
- 自身の意思決定において勘や経験だけでなくデータを重視する姿勢を見せる
- 新しいデジタルツールを率先して活用する
- そして何よりも、挑戦した結果の失敗を責めるのではなく、
そこからの学びを奨励する「失敗を許容する文化」を醸成する
リーダーが率先垂範することで、従業員は安心して新しい挑戦に踏み出すことができるのです 。

役割⑤:現場を支援する 「サーバントリーダー」
変革の主役は、あくまで現場で働く従業員です。
優れたリーダーは、上から指示するだけでなく、現場の成功を支援するために障壁を取り除く「サーバントリーダー」として振る舞います 。
これには、定期的にプロジェクトの進捗報告会に参加して戦略的な助言を与えるだけでなく、現場の従業員と直接対話し、彼らが直面している課題や部門間の対立があれば、自らが動いて解決することが含まれます。
現場で生まれた小さな成功事例を全社で称賛し、担当者の努力をねぎらうことで、組織全体のモチベーションを高めることも重要な役割です。

これら5つの役割は、独立したものではなく、相互に連携し、好循環を生み出します。
説得力のあるビジョン(役割1)は、困難な意思決定(役割2)を正当化します。
断固たる意思決定(役割2)は、積極的な投資(役割3)を後押しします。
十分な投資(役割3)は、挑戦と失敗を許容する文化(役割4)を可能にします。
そして、支援的な文化(役割4)が現場を力づけ(役割5)、
そこから得られるフィードバックがビジョン(役割1)をさらに磨き上げます。

一つの役割の欠如が他の全ての役割を弱体化させ、変革のエンジンを停止させてしまうのです。
経営者は、これら5つの側面すべてにおいて自らのリーダーシップを総合的に発揮することが求められます。
次回のコラムは、11月20日(木)更新予定です。