
"3分で読める"シリーズの第2弾 DX(デジタルトランスフォーメーション)に関するコラムです。
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【第2回】なぜ今DXが必要なのか? – 放置できない「2025年の崖」
はじめに
DXが単なる流行語ではなく、企業の存続に関わる経営課題であることは、前回のコラムで述べました。
では、なぜ「今」これほどまでにDXの推進が叫ばれるのでしょうか。
その背景には、経済産業省が警鐘を鳴らす「2025年の崖」という、日本企業が直面する深刻な危機が存在します。
今回は、この危機の本質を解き明かし、DXが守りと攻めの両面で不可欠な戦略であることを解説します。
経済産業省が鳴らす警鐘:「2025年の崖」とは
「2025年の崖」とは、2018年に経済産業省が発表した「DXレポート」で提示された衝撃的なシナリオです。
もし日本企業が既存のITシステム(レガシーシステム)の刷新やDXへの取り組みを怠った場合、
2025年以降、年間で最大12兆円もの経済的損失が生じる可能性があると警告されています。
この「崖」は、複数の問題が2025年前後に集中することで形成されます 。

- 技術的負債
多くの企業が、長年にわたる継ぎ足し開発の結果、老朽化・複雑化・ブラックボックス化した基幹システムを抱えています。
これらのシステムは「技術的負債」となり、維持管理に莫大なコストがかかるだけでなく、新しいビジネス要件への迅速な対応を困難にしています。
2025年には、基幹システムの6割が導入から21年以上経過すると予測されています。 - 人材の崖
これらの複雑なレガシーシステムを理解し、維持してきたベテランIT人材が、2025年前後に大量に定年退職を迎えます。
これにより、システムの運用・保守が困難になるだけでなく、ノウハウが失われる「人材の崖」に直面します。 - サポート終了
多くの企業で導入されているSAP社のERP製品など、主要なITシステムのサポートが2025年以降に順次終了します。
サポートが終了したシステムを使い続けることは、セキュリティリスクの増大やシステム障害時の対応不能といった深刻な事態を招きます。 - データのサイロ化
部門ごとに最適化されたレガシーシステムは、全社横断的なデータ活用を阻害します。
データが分断された「サイロ」状態では、経営判断に必要な情報を迅速に得ることができず、データ駆動型経営の実現を妨げます 。
「崖」の向こう側にある3つのリスク
これらの問題が絡み合い、「2025年の崖」を乗り越えられなかった企業は、深刻なリスクに直面します。
- 競争力の喪失
市場や消費者のニーズが急速に変化する現代において、レガシーシステムに縛られた企業は、迅速なビジネスモデルの変革ができません。
結果として、GAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)に代表されるようなデジタル技術を駆使するグローバル企業との競争に敗れ、市場から取り残されるリスクがあります。
- 事業継続リスク
サポートが終了し、ブラックボックス化したシステムは、いつ重大な障害やサイバー攻撃に見舞われるか分かりません。
システムトラブルやデータ漏洩が発生すれば、事業の停止や信用の失墜につながる可能性があります。
この観点から、DXは事業継続計画(BCP)の重要な一環とも言えます。
- イノベーションの停滞
企業のIT関連予算の実に9割以上が、レガシーシステムの維持管理費に費やされているという試算もあります。
これでは、AIやIoTといった新しいデジタル技術への戦略的な投資や、新規事業創出のための資金を捻出できず、企業の成長は停滞してしまいます。
DXがもたらす5つのメリット
「2025年の崖」という危機的な側面を強調しましたが、DXは単なるリスク回避策ではありません。
むしろ、未来を切り拓くための積極的な戦略であり、企業に多くのメリットをもたらします 。
- 業務効率化・コスト削減
RPA(Robotic Process Automation)などによる定型業務の自動化や、業務プロセス全体の最適化により、生産性を向上させ、コストを削減できます。

- データ活用による競争力強化
散在していたデータを統合・分析することで、顧客ニーズの把握や精度の高い需要予測が可能になり、データに基づいた迅速かつ的確な意思決定が実現します。

- 新規サービス・ビジネスモデルの創出
デジタル技術を活用することで、これまで不可能だった新しいサービスや、サブスクリプションモデルのような新たな収益源を生み出すことができます。

- 働き方改革の推進
クラウド技術などを活用すれば、時間や場所に縛られないテレワークなどの柔軟な働き方が可能になり、従業員の満足度向上や多様な人材の確保につながります。

- 事業継続計画(BCP)の充実
システムのクラウド化や業務プロセスのデジタル化は、自然災害やパンデミックといった不測の事態においても事業を継続できる、しなやかで強靭な組織体制を構築します。

このように、「2025年の崖」は、技術、人材、セキュリティのリスクが複合的に絡み合ったシステム的な危機です。
したがって、DXは単なる成長のための「攻めの戦略」であるだけでなく、企業の存続をかけた「守りの戦略」でもあるのです。
経営者は、DXへの投資を単なるコストではなく、 inaction(何もしないこと)がもたらす壊滅的な損失を回避するための不可欠な保険として捉える必要があります。
次回のコラムは、10月30日(木)更新予定です。