
"3分で読める"マーケティングに関するコラムの第2回です。
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【第2回】すべてはここから始まる : 「顧客価値」を理解する
なぜ顧客価値が重要なのか
第1回は、マーケティングの理想が「販売を不要にすること」であり、そのための「売れる仕組みづくり」が重要であることであると述べました。
では、その仕組みづくりの出発点はどこにあるのでしょうか。
答えは 「顧客価値」の深い理解
にあります 。
顧客は製品そのものを買っているのではありません。
その製品を通じて得られる「価値」、つまり自身の課題解決や欲求充足という便益に対してお金を払っているのです。
したがって、すべてのマーケティング活動は、この顧客価値を定義し、創造し、提供することから始まります。
機能的価値と情緒的価値
顧客価値は、大きく二つの側面に分けることができます。
- 機能的価値
製品やサービスが持つ、具体的で実用的な価値です。
例えば、自動車の燃費性能、スマートフォンの処理速度、掃除機の吸引力などがこれにあたります 。
これは製品のスペックや性能に直結する価値です。 - 情緒的価値
製品やサービスを通じて顧客が感じる、感情的・心理的な満足感です。
高級車を所有する誇り、Apple製品を使うことで得られる創造的な感覚、特定のブランドのファンコミュニティに所属する一体感などが挙げられます 。
現代の市場では、機能的価値だけでの差別化は非常に困難です。
どんなに革新的な機能も、いずれは競合に模倣されてしまいます。
その結果、価格競争に陥り、収益性は低下します。
一方で、ブランドストーリーや顧客体験に根差した情緒的価値は、他社が簡単に真似できない強力な競争優位性、つまり「堀(モート)」となり得ます。
顧客が「このブランドだから欲しい」と感じる強い結びつきは、この情緒的価値から生まれる
のです。
顧客価値の4つのレベル
顧客が感じる価値は、さらに4つの階層で考えることができます 。

- 基本価値
製品に備わっていて当然の、最低限の価値 ➡これがなければクレームの対象となります。
例:自転車のブレーキがきちんと効くこと 。 - 期待価値
顧客が言葉にしなくても「当然あるだろう」と期待している価値 ➡これを満たして、ようやくスタートラインです。
例:新しく購入した自転車のタイヤに空気が入っていること 。 - 願望価値
顧客が「こうだったら嬉しいな」と願う価値 ➡これを提供できると、他社との差別化が始まります。
例:自転車購入後の無料点検サービス 。 - 予想外価値
顧客の期待をはるかに超える、驚きや感動を伴う価値 ➡これが熱心なファンを生み出します。
例:点検に出したら、頼んでいないチェーンの清掃までしてくれていた 。
持続的なビジネスを築くためには、競合がひしめく「基本価値」や「期待価値」のレベルで戦うのではなく、
いかにして「願望価値」を継続的に提供し、時として「予想外価値」で顧客を魅了できるかが鍵となります。
価値創造の成功事例
優れた企業は、巧みに顧客価値を創造しています。
- スターバックス
彼らが提供しているのは、コーヒーという機能的価値だけではありません。
「家庭でも職場でもない、第三の心地よい場所(サードプレイス)」という情緒的価値です。
くつろげる空間、安定したWi-Fi、親しみやすい接客。これらすべてが合わさって、「スターバックスで過ごす時間」という独自の価値を創造しています 。 - 任天堂『Wii』
2006年に発売された家庭用ゲーム機『Wii』は、単に高性能なゲーム機(機能的価値)として成功したのではありません。
直感的な操作を可能にすることで、これまでゲームをしなかった親や祖父母を巻き込み、「家族団らんの時間」という情緒的価値を創造しました。 - Apple『iPodとiTunes』
CDから音楽を取り込む手間をなくし、音楽の購入から再生までをシームレスに繋げたことで、圧倒的な「利便性」という機能的価値を提供しました。
さらに、その洗練されたデザインと体験は、「クールである」という情緒的価値を生み出し、多くの人々が購入しました。
これらの事例に共通するのは、製品のスペックを超えた「顧客にとっての意味」を深く追求している点です。
マーケティングの初心者は、まず「自分たちの製品は、顧客の生活においてどのような価値を提供しているのか?」という問いから始めることが重要です。
第3回は、7月24日更新予定です。