【第1回】3分で読める DX入門講座

今回より"3分で読める"シリーズの第2弾として、DX(デジタルトランスフォーメーション)に関するコラムをスタートしました。 
是非ご覧ください。

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【第1回】DXとは何か? – 「デジタル化」との決定的な違い


はじめに


デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉が、ビジネスの世界で聞かれない日はないほど浸透しました。
しかし、その本質を正しく理解している企業はまだ少ないのが現状です。

多くの誤解の根源は、DXを単なる「新しいITツールの導入」と捉えてしまう点にあります。

本連載の初回では、DXの核心に迫り、しばしば混同される「デジタル化」との決定的な違いを明らかにします。
DXとは技術の更新ではなく、企業全体の変革そのものであることを理解することが、成功への第一歩です。

経済産業省によるDXの公式定義


DXを理解する上で最も信頼できる出発点は、経済産業省が示す公式な定義です。
同省は「デジタルガバナンス・コード3.0」の中で、DXを次のように定義しています。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、
顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、
業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること

引用元:経済産業省「デジタルガバナンス・コード3.0~DX経営による企業価値向上に向けて~」

この定義は一見複雑ですが、3つの核心的な要素に分解できます。

  1. 推進力(Driver
    ビジネス環境の激しい変化への対応
  2. 手段(Method)
    データとデジタル技術の活用
  3. 目標(Goal)
    製品、サービス、ビジネスモデルから、業務、組織、企業文化に至るまで全てを変革し、「競争上の優位性」を確立すること。

ここで最も重要なのは、最終目標が「デジタル技術の活用」そのものではなく、それを通じて「競争上の優位性を確立する」ことにある点です。
デジタル技術はあくまで変革を実現するための手段に過ぎません。

DXへの3つのステップ
「デジタイゼーション」「デジタライゼーション」「DX」


DXの道のりは、一直線に進むものではなく、一般的に3つの段階を経て実現されます。
この段階的なプロセスを理解することは、自社の現在地を正確に把握し、次のステップに進むために不可欠です 。

  • デジタイゼーション(Digitization)
    これはDXへの最初のステップであり、アナログまたは物理的な情報をデジタル形式に変換するプロセスを指します。
    例えば、紙の書類をスキャンしてPDF化する、フィルムカメラをデジタルカメラに置き換える、紙の請求書を電子請求書システムに切り替えるといった活動がこれにあたります。
    これは、情報の「形式」を変える段階です。
  • デジタライゼーション(Digitalization)
    次のステップは、デジタル技術を用いて「個別の業務プロセス」を効率化・高度化することです。
    例えば、これまで紙とハンコで行っていた承認プロセスをワークフローシステムで電子化する、顧客情報をCRM(顧客関係管理)システムで一元管理するといった取り組みが該当します。
    これは、業務の「方法」を改善する段階です。
  • デジタルトランスフォーメーション(DX)
    最終目標であるDXは、組織横断的かつ全体的な変革を指します。
    単なる業務改善にとどまらず、ビジネスモデルそのものを変革し、顧客や社会に対して新たな価値を創出する活動です。
    かつてのレンタルビデオ店がオンラインの動画配信サービスを開始した例や、カメラが写真共有という新たなライフスタイルを生み出した例がこれに当たります 。
    これは、ビジネスの「存在理由(Why)」そのものを変革する段階です。

多くの企業が直面する最初の壁は、この「デジタライゼーション」を「DX」と混同してしまう点にあります。
ツールの導入自体が目的化し、本来目指すべきビジネス変革に至らないケースが後を絶ちません。
この違いを明確に認識することが、DXの迷路に迷い込まないための最初の羅針盤となります。

DXとデジタル化の比較


デジタル化
(Digitization/Digitalization)
DX
(デジタルトランスフォーメーション)
目的業務効率化、コスト削減新たな価値創出、競争優位性の確立
視点社内向き、個別最適顧客・社会向き、全社最適
範囲 個別業務・プロセスビジネスモデル、組織文化全体
ゴール 手段(ツール)の導入変革の実現

この表が示すように、デジタル化が「部分的な改善」であるのに対し、DXは「全体的な変革」を目指すものです。
両者は無関係ではなく、デジタイゼーションとデジタライゼーションはDXを実現するための不可欠な基盤となります。

しかし、それ自体がゴールではないことを強く認識する必要があります。
DXの旅は、ツールの導入で終わるのではなく、そこから始まるのです。


次回のコラムは、10月23日(木)更新予定です。